あのときの笑顔
眠っていた

椅子を用意してもらって
しばらく寝顔を見ていた
弘子さん 息子さんが来とってやで 弘子さん
隣に座ってたおばあちゃんの声で目を開けた
しばらく私の顔を見て じーっと見て
私の手を取り ギューッ 骨がポキポキ鳴った

マスクの着用が決まり事 ただでさえ私がわからないのに
マスクなんかつけたらそれこそどこの誰やら
あんまりギューッと握るもんだから
痛いがな と大げさに言ったらさらに
にこっと笑って ギューッ

懐かしい手です
私が誰かわからないのはもうずっとのこと それでも
僕 わかるか? と訊いたらわからないなりにも
楠公さん とか 平清盛 とか 東郷平八郎 とか
デタラメで応えていたのに
またうつらうつら また顔を上げて私の手を バンッ
なんか反応が乏しくなっていました
からだは元気そうでした
しんどいことないか?
いんや
どっか痛いとこは?
どっこも
そうか それはよかった
また眠ってしまったけれど
もう少し そばにいたくてスマホでも
写メを撮って ネットニュースでも
弘子さん 寝たらあかんがな 息子さんが来とってやな
いや このままでええんやけど と思いながら
ありがとうございます
帰るわ また来るわな と立ち上がったら
おかあちゃんが突然
気ぃつけて帰りよ
子どもが小さかったころ 孫を見せに実家によく帰っていたころ 帰り際に必ず言いました
気ぃつけて帰りよ 車に気ぃつけえよ
さっきまでなんにもわからず寝てばかりで目が覚めたら私の手を叩いてばかりだったくせに 突然しっかりもののおかあちゃんが覚醒してびっくりしました 声まであの頃と同じでした

部屋を出てドアを閉めて振り返ったらのぞき窓越しに目が合いました あと数秒後には何があったのか誰かが来たことすら何も覚えていないでしょう からだは元気でした なんだかまだまだ大丈夫なような気がしました
エレベーターの中で このゴールデンウィークに子供たちが帰っていくごとに 気ぃつけてな と声をかけたことを思い出しました それは決してただの儀礼的な慣用的な挨拶なんかじゃなく ほんまに気つけて帰るんやで との祈りでした そうか だったら あの頃は はいはい わかっとるわな って聞き流していたけれど親は本当に心配していたんだなと今になってわかります
そして ちょいとひっかっていました さっきの 帰るわと立ち上がったときのおかあちゃんの顔 泣くような笑うような悲しそうな 遠い記憶の隅で小箱がカタンと音を立てたような なんや? これは あの顔は えーっと・・・
どっかで見た いつか見た なんだ? なんだったっけ・・・あぁ そうや あのときや あのときの顔や と車に向かいながら思い出した いや ほんとはとっくにわかっていた 思い出していた ただ あのときのあの顔とほんとに一緒だったからびっくりして頭が混乱しただけ・・・

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しばらく寝顔を見ていた
弘子さん 息子さんが来とってやで 弘子さん
隣に座ってたおばあちゃんの声で目を開けた
しばらく私の顔を見て じーっと見て
私の手を取り ギューッ 骨がポキポキ鳴った

マスクの着用が決まり事 ただでさえ私がわからないのに
マスクなんかつけたらそれこそどこの誰やら
あんまりギューッと握るもんだから
痛いがな と大げさに言ったらさらに
にこっと笑って ギューッ

懐かしい手です
私が誰かわからないのはもうずっとのこと それでも
僕 わかるか? と訊いたらわからないなりにも
楠公さん とか 平清盛 とか 東郷平八郎 とか
デタラメで応えていたのに
またうつらうつら また顔を上げて私の手を バンッ
なんか反応が乏しくなっていました
からだは元気そうでした
しんどいことないか?
いんや
どっか痛いとこは?
どっこも
そうか それはよかった
また眠ってしまったけれど
もう少し そばにいたくてスマホでも
写メを撮って ネットニュースでも
弘子さん 寝たらあかんがな 息子さんが来とってやな
いや このままでええんやけど と思いながら
ありがとうございます
帰るわ また来るわな と立ち上がったら
おかあちゃんが突然
気ぃつけて帰りよ
子どもが小さかったころ 孫を見せに実家によく帰っていたころ 帰り際に必ず言いました
気ぃつけて帰りよ 車に気ぃつけえよ
さっきまでなんにもわからず寝てばかりで目が覚めたら私の手を叩いてばかりだったくせに 突然しっかりもののおかあちゃんが覚醒してびっくりしました 声まであの頃と同じでした

部屋を出てドアを閉めて振り返ったらのぞき窓越しに目が合いました あと数秒後には何があったのか誰かが来たことすら何も覚えていないでしょう からだは元気でした なんだかまだまだ大丈夫なような気がしました
エレベーターの中で このゴールデンウィークに子供たちが帰っていくごとに 気ぃつけてな と声をかけたことを思い出しました それは決してただの儀礼的な慣用的な挨拶なんかじゃなく ほんまに気つけて帰るんやで との祈りでした そうか だったら あの頃は はいはい わかっとるわな って聞き流していたけれど親は本当に心配していたんだなと今になってわかります
そして ちょいとひっかっていました さっきの 帰るわと立ち上がったときのおかあちゃんの顔 泣くような笑うような悲しそうな 遠い記憶の隅で小箱がカタンと音を立てたような なんや? これは あの顔は えーっと・・・
どっかで見た いつか見た なんだ? なんだったっけ・・・あぁ そうや あのときや あのときの顔や と車に向かいながら思い出した いや ほんとはとっくにわかっていた 思い出していた ただ あのときのあの顔とほんとに一緒だったからびっくりして頭が混乱しただけ・・・

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